あけましておめでとうございます。

旧年中はお世話になりました。
2017年! 今年もよろしくお願いいたします。
みなさまにとって、豊かな年になりますように。

ツイッターに流した蒼穹~夫婦のSSをこちらにも置いておきますね。
確か、4譚1章(プロポーズ)と2章(結婚)のあいだの時間軸で書いたんだったとおもいます。


「あけまして、おめでとう、ございます」
 新年を迎えるにあたって仕立てた晴れ着で、桜はひょこ、と慣れない礼をする。随所に刺繍のなされた振袖はふだん着ているものより重く、動きづらい。とはいえ、この春に婚姻を控えている桜にとっては最後に着る振袖になる。
 えんえんと続いた長老たちからのあいさつがようやく終わり、桜は脇息にぺたんと突っ伏した。つかれた。足が痺れてうごかない。肩に石が乗っているみたい。今すぐ振袖を脱ぎ捨ててしまいたい。脇息に額をくっつけたまま、ころころしていると、外から襖を引かれる音がした。はっと条件反射で飛び起きる。
「あけましておめでとうございます!」
「……おめでとうございます?」
 いぶかしげに返したのは雪瀬だった。ああよかった、次のあいさつじゃなかった…。ほっとすると力が抜けてしまい、桜は再び脇息にもたれる。
「あけまして……あけまして……」
 どうしよう、朝から晩までそれしか言っていないせいで、言葉が「あけまして」と「おめでとうございます」の二通りしか出てこない。
「おめでとうございます……」
「おめでとうございます」
 しょんぼりと礼をした桜に、雪瀬も丁寧にあいさつを返した。
「もうおしまいですよ。おつかれさま」
 教えられて、よかった、と息を吐き出す。長かったけれどやりとげられたらしい。しみじみとうなずく桜を雪瀬の腕が膝に抱き上げる。と思ったら、よろめいて桜を抱えたまま後ろに転んだ。あれ?と呟く雪瀬はおかしいな、といった風だ。
「なんか思ったより重かった」
「おもい」
 妻にする女性を重いとは。
「じゃなくて、着物が重かった」
「脱ごうか?」
「……、」
 微妙な間があったあと、
「自信がないので、そのままでいてください」と慎ましやかに雪瀬はこたえた。身体を下ろされはしなかったので、胸に頬をくっつけてすりすりする。そうすると、大きな手のひらが頭を少し撫でてくれた。銀簪を挿した髪は今日は新年らしくちりめんのつまみ細工の花が飾ってある。その位置を直すようにして髪を梳いた指先が耳たぶに触れる。つめたい。雪瀬の指先のつめたさが桜はすきだ。さやけきものの気がして。まどろむように指先に頬を擦り寄せて目を瞑る。
 雪にふわっと灯りがともるような至福の時である。
 こうして雪瀬になでなでしてもらえるなら、重い振袖も、むつかしいあいさつもよいかもしれない。考えていたところで、「あっ」桜は大事なことに気づいて身を起こす。肝心の雪瀬にちゃんと年明けのご挨拶をしていないことに思い至ったのだった。遅れて半身を起こした雪瀬のまえで、振袖の乱れを直すと、きちんと正座をして畳に手をつく。今日いちばんきれいに見えるように。
「あけましておめでとうございます」
 普段は慣れない丁寧語も、何度も繰り返したおかげで完璧だ。
「旧年はお世話になりました」
 言うべき言葉はちゃんと草紙を読んでお勉強したからだいじょうぶ。
「今年もよろしくお願いします」
 顔を上げて、桜はにっこり花が咲けるように微笑んだ。
「旦那さま?」
 一拍の空白。
 のち、へんにくぐもった声が上がって、げほげほと急に雪瀬が噎せ込み始める。頬がびみょうに赤い。ふしぎそうに瞬きをした桜に、「それ」と雪瀬は目を合わさずに言った。
「絶対人前で言わないで……」
「あけましておめでとうございます?」
「そのあとの」
「今年もよろしくお願いします?」
「そのあとの」
「だ」
 ぺた、と口元に手をあてられる。
 該当箇所に気付いて、桜はとりあえずうなずいた。はて、そんなに恥ずかしがることなのだろうか。もっと恥ずかしくて情けないことをこのひとたくさんやっている気がするんだけども。なんとなく解せない気分になったものの、恥じらう雪瀬はたいへんめずらしかったので、桜はうれしくなって相好を崩した。
「だんなさま―……?」
「だから、」
「今はふたりだけだもの」
 先回りして言うと、返す言葉を失くしたらしく雪瀬は押し黙った。でもこれ以上やると、ほんとうに機嫌がわるくなってしまいそうな気がする。ので、「だんなさま」はおしまいにして、桜は雪瀬の隣に座って肩におでこをくっつけた。どうぞこれからも、すえながくよろしくお願いいたします。
 永年の祈りをこめて心の中でだけ囁く。
 ――わたしのいとしいだんなさま。

++「わたしのいとしいあなた。」@蒼穹、その果てより

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